第二回:世田谷エリアの3つの街の情報メディア「自由が丘℃」等の運営会社様へインタビューを行いました

世田谷の人気エリアを紹介する地域メディア「自由が丘℃」「駒沢公園倶楽部」「三茶TRIP」のプロデュースをされています、コペルニクスデザイン代表の有田佳浩さんにお話を伺いました。

世田谷の人気エリアを紹介する地域メディア「自由が丘℃」「駒沢公園倶楽部」「三茶TRIP」のプロデュースをされています、コペルニクスデザイン代表の有田佳浩さんにお話を伺いました。有田さんは大阪で活躍されていますが、東京で事業を展開している株式会社明和住販流通センターの塩見紀昭社長とタッグを組んでメディア展開をされています。

自由が丘℃
http://oka-do.net/
駒沢公園倶楽部
http://komazawa-club.net/
三茶TRIP
http://3-cha.net/

前回のインタビューの折、塩見社長から編集会議の見学を提案していただき、小雨が降る中、「自由が丘℃」「駒沢公園倶楽部」「三茶TRIP」の編集会議に参加させていただきました。
その場にいらっしゃったプロデューサーの有田代表にインタビューを敢行したところ、快くインタビューを受けてくださいました。

前回インタビューはこちら

まず、大阪と東京の企業が一緒にメディアを作るまでのいきさつをお伺いしたいと思います。

私は元々雑誌の編集の人間なんですよ。東京も厳しいですけども、関西って特に雑誌が次から次となくなっていっているんですね。関西で地道に情報を扱っていた雑誌が廃れていってしまって、少しを除いて今はほぼメディアがないんです。東京からきた大手出版社のメディアに荒らされてしまって、それが去った後に焼け野原が残った感じです。
それで、10数年くらい前から企業さんの宣伝ツール、と言うよりはメディアを作らせていただいていて、それを宣伝に使っていただこうという仕事を始めたんですね。それで芦屋の不動産会社さんと知り合うきっかけがあって、ホームページを作ってくれと言われたんです。

10年前の当時はあまりなかったと思うんですけど、どうせやるのだったら、物件が並んでる単なる不動産ホームページではなくて、“ここに住んだらこんな幸せな生活が待ってるよ”“こんな暮らしが待ってるよ”っていうことを紹介するような不動産会社のホームページを作りましょう、と提案したんです。

今でこそ企業がメディアを持つ事例が増えてきましたけど、10年前からされていたんですね。どういう着想だったんですか?

雑誌ですよね。
普通企業の宣伝と言うと着眼点は自社の商材や情報を伝えるってことで、あとは顧客満足じゃないですか。でも雑誌って顧客満足だけだと売れないので、読者をちょっと引っ張り上げてあげないといけないんです。つまり、読者が今現状持っている情報とか感覚に対して、少し先を見せるというか、ちょっとプラスアルファ引っ張り上げてあげるような、その接点を求めていくような感覚が雑誌にはあるんです。
でも企業さんの、特に自社のホームページのような宣伝ツールを作るときに、それが抜け落ちてるという感覚が凄くあったんですね。

じゃあ芦屋っていうブランド力のある街で不動産会社をやってる企業にとって、その接点て何なのかというと、やっぱり芦屋っていう街が好きになるようなパン屋さんだったり、緑の綺麗な公園だったり、水のきれいな川だったり、そういうのが接点になってくるはずなんですよ。それをちゃんと紹介していきましょうという考え方ですね。

企業がメディアを運営するというと、費用対効果がどうとか、どうしても出てくると思うんですが、どう兼ね合いを取られたのですか?

色々な要素があるんですけど、儲け一直線のところ以外にちょっとだけ寄り道する余裕と、それがいずれ儲けに跳ね返ってくるという想像力を経営者の方に持っていただいていたっていうことですね。これは凄くありがたかったです。本当に10年たった今でも、同じような発想で色んな業種の経営者の方と話をして、それがまだ伝わらないことが多々あるんですよね。

まあ、そうやって芦屋でメディアのプロデュースをしていたところ、塩見社長からご連絡をいただいて、今に至るわけです。

東京でメディアを作るといったときに、塩見社長とメディアのイメージは共通していましたか?

そうですね、根本的なところで食い違いはなかったですね。

例えばメディアを運営するときにありがちなのは、私の大阪の事務所のスタッフが取材をすること。でも、これは塩見さんにも私にとっても本意ではない。それでは全く意味が無いと。地元に住んでらっしゃる本当の素人さんが作るっていう事に意味があるのであって、プロが作ってビジネスになってはいけないんです。
要は出版社での雑誌の取材となるとページ数が決まっていて、そこにどれくらいネタを放り込まないといけないかっていう所も苦労するわけで、載せたいところを削除したり、スペースなんかも入れないといけないですし、そういう外枠の制限があるんです。そういうのじゃなくて、制限に縛られないで、本当に自分が良いと思うものだけを載せるっていう“真実のメディア”ですね、これはお仕事として情報メディアを作ってるのとは格段に違うところだと思ってますね。

もうひとつは、私自身の経験がそうなんですけども、取材って相手と仲良くなれるんです。相手の本質に迫ろうと思って取材するわけですから、ましてや今回のメディアのライターの皆さんは取材するお店の地元に住んでるお客さんですから、お客さんが自分の本質に迫ってきてくれようとしたら、やっぱりお店も心開いてくれるし、凄く仲良くなれるんです。で、この地道ですけど、草の根的な積み重ねって、地域の熱を伝えるには凄く大きな話だなと。

この2つの点だけは、塩見さんと最初からバチっと合ったので、ありがたかったです。

ライターさんを募集して、たくさん応募があったとお聞きしましたが、その中で6名の方を決めたポイントはどこにありますか?

なんでしょうね。型にははまらなくていいかと思っていて、色々ですよ。
めっちゃ酒が好きな方とか、塩見社長にもツッコミをいれる方とか、なんかそんな方が集まる方が楽しいと思っていて、ただ一つ言えるのは、べたですけど、色んなお店行って色んな人と話をするのが大好きな人ですかね。長年の経験から、“あぁこの人やったら取材できるな”っていうのは自然とあるので、そういう視点で選んだんです。

でもいつも共通の質問をするのは、“あなたの街のあなたの一押しのお店を、私に紹介してください”って振るんですよ。それで、どういうネタをピックアップされて、どういう表現で私に伝えてくれるのかっていうのを見ますね。

色んな個性の方々と編集作業をする中で、難しいところってありますか?

意外とないんですね。みなさん仕事早いですし。ガチガチに直して画一的な文章にしてしまうと本来のメディアのコンセプトとずれてしまうので、極力直さないでそれぞれのキャラが生きるようにしています。ただ読んでる人が不快にならない、誤解をしない、二通りに意味を取らない、ということだけは考えて、あとは見出しですね。見出しは全てを総括したような見出しではなくて、一部具体例を抜粋してくるような見出しにしましょうと。そう言う話はしていますけど、それくらいですね、全然苦労はないですよ。

写真もみなさん巧くなったし、始めの頃は編集会議っていうと、技術指導が占めていたんです。写真をこうして撮りましょうとか、原稿はこう書きましょうとか。今日なかったでしょ?

無かったですね。

無いんですよ。それは皆さん、貪欲にスキルアップしていただいて。

モチベーションは募集のときから高かったのが続いてらっしゃるんですね。

やっぱり自分の好きなお店のシェフとかオーナーと仲良くなれるっていうのは楽しいことですし、原稿書くのは大変ですけど取材行為自体は楽しいじゃないですか。それは私も今でもそうですし、たぶん皆さんもそう思っていただいてるだろうと思います。

恵まれてるなぁ。

編集会議のために毎月大阪から来られてる点はいかがですか?

楽しいですよ。朝6時過ぎの新幹線で早いですけど。
イベントなどがあるときはイレギュラーで出てきますが、基本的には編集会議で来る以外は遠隔でやりとりしてますね。

世田谷のメディアを作られて他に感じたことってありましたか?

例えば取材したお店に置いてもらうために、サイトを紹介したフライヤーを作ったとするじゃないですか。普通は、そういうことをするときって、そこに会社の名前を入れろっていうんです。塩見社長、入れるなって言うんです。最初、気を使って社名を小さく入れてたんですけど、取れっていうんです。これは凄いなと思って。

それはしびれますね。

そんなことしたら逆効果だからするな、結果的には回ってくるから大丈夫だって。経営者の方でこの想像力ってなかなかいらっしゃらないですよね。
経営者の皆さんて、凄く直線的な量とかボリュームとかの基準で、良いか悪いかの判断をしてしまうんです。塩見社長はトータルで自社のイメージを考えていて、ぐるっと回りまわって佇まいを作るようなことをイメージしてらっしゃって、それは凄く感動です。勉強にもなります。

だから、前回の記事に書いてありましたけど、世田谷で不動産の商売ができるのは自分が偉いからじゃないんやと。この街で元々頑張ってた人たち、今頑張ってる人たちが魅力的な街にしてくれてるから、商売できんねや。だから恩返しすんねんて、最初聞いたとき泣きそうになりましたから。

ちょっといないかな、こんな経営者の方。

なんかあまりメディア戦略論になってないですね(笑)

いえ、色んな立場から色んな視点でお話を伺えて嬉しいです。でもせっかくなので聞いていいですか?

私にとっての戦略なんですけど、感動の無い戦略って意味がないかなって思ってます。血の通ってない戦略って全く続かないし成功しないって。

このメディアは、始めた頃からニュース性、即時性と双方向性っていうのは無かったんです。私が元々印刷して出版してっていう、時間がかかって形になる雑誌メディアの人間なので、どうしても情報が一方通行で、ある意味インターネットの特性を活かしてないんです(笑)でもそれはそれでいいかなと。逆にそこに逆らっても、そううまくいくかって気もしてるんですね。端から根っこが無い状態で双方向性や即時性やらに飛びついてたら、今無かったなと思います。

今日、編集会議を拝見してても、ひとつの記事に時間をかけられてる印象を受けました。

そうですね。取材してから平均一ヶ月くらいかかってるんじゃないですかね。

記事の他に、キャンペーンがありますが、有田さんはキャンペーンにはどう関わっていらっしゃるんですか?

実は私はあまりキャンペーンて考えてないんですよ。全てコンテンツのひとつだと思っています。

今、広告を出させてほしいって言う問い合わせが結構あるんですけど、全部お断りしてるんですよ。広告で金儲けはしないと。ただ、そういう問い合わせの中で、一緒に何か動きを起こして、それがコンテンツになるようなものだったら、お金はいただかないですけど、やりましょうと。
取材のコンテンツだけじゃなくて、自らイベントを起こしてイベントレポートする、そのイベントから発生する読み物をコンテンツ化する。ランニング教室とかカバン制作もそうですね。メディアから発生したプロジェクトがあって、その過程を見る楽しみを提供するコンテンツもある。単にキャンペーンと言うよりはプロジェクト、コンテンツです。

大切なのは、変に欲張らないでライターの皆さんが取材先の人たちと仲良くできる状況を作らせてもらう、フォローさせてもらうっていうことが一番かなと。
“取材して仲良くなる”。
この接点が街中にいっぱいできていくと、メディアのポテンシャルは確実に上がっていくと思いますし、その積み重ねで周りから注目していただいているのかなって気はしていますね。

なるほど。話は変わりますがこのメディアを立ち上げたとき、世田谷の街ってまったく知らずでした?

はい(笑)

立ち上げ前に一週間ずつ住んでみたとお伺いしましたが、住んでみてどうでした?

基本的に私は現場の匂いを嗅がないと仕事できない人間なんで、マンスリーマンションを借りて、自主的に来たんです。駒沢公園にしても週末に来るとか平日の早朝や昼に来るとか時間帯を変えて一通り見ました。自由が丘も平日と週末では全く雰囲気が違いますし、そういうの全部味わわせてもらって、サイトの旗印を作らせていただいたんですね。

自由が丘は、思ったより下町やなぁ、芦屋に比べると完ぺき下町やなぁと。がやがやした感じで、いわゆる世間一般的に言われている自由が丘のイメージは、行ってみて伝わらなかったです。ただ明らかに平日の昼間と週末では違うな、週末は外から来てる人の割合が非常に多いなと。これっておそらくこの周辺に住んでる人は、街ガイドなんかとどっかでギャップ感じてるだろうな、っていうのは感じましたね。

ガイドは自由が丘に付いたイメージを前提に取材に来てるというのもあるんでしょうね。

だから地元に住んでる人間と、情報誌やガイドブック片手に週末通ってくる人間とは、たぶんずれがあるだろうな、地元の人は“ちゃうでそれ”って思ってるなと思って、これを私たちがメディアとしてちゃんと伝えていくべきところなのかな、と。それで、自由が丘のメディアとしてのキーワードとなってくるのは、“凄く生活感のあるおしゃれさ”だと思ってます。子育て感もあって、けっこう現実的な街だと思ってます。

それと反対なのは駒沢で、駒沢ってけっこう大人の道楽の街だと思ってます。一見何のメリットもないような、その場だけの楽しみの道楽っていうのは、多分自由が丘ではなく駒沢っていう、そんな感じですね。あとは駒沢公園倶楽部ってタイトルを付けたのは、駒沢の歴史的なところも調べたら、元々オリンピックの会場だったという話からですが、表現したかったのは、駒沢公園というすごく大きな存在がドカンとあって、皆さん何らかの形でそれと付き合ってるってことです。走るかもしれないし、犬の散歩かもしれないし、子供連れて遊びに行ったり、花見したり、、、何もしなくても緑にリフレッシュされたりとか、皆何らかの形で駒沢公園という存在に影響されて生活してる。そういう素敵な公園を中心に、その周りで影響されながら生活してる人たちの独特の生活感を表現できたらと思ってます。

三軒茶屋は大阪的かなって気がしてますね。猥雑じゃないですか。新しいのもあれば昔からの渋いものもありますし、もっと言うと世田谷って言う住宅エリアと渋谷って言う繁華街と、それと下北沢なんかとの接点的な位置にありますし、色んなものが接点として混ざり合うような、そういう色んな側面をサイケデリックな感じでトリップしてしまいましょうということで「三茶トリップ」。

そっちのトリップなんですね(笑)

両方です(笑)
まぁまぁでも色んな側面ありますからね、その辺を出したいなと思ってますね。だから三軒茶屋は好奇心旺盛な方たちが担当してくれています。

では最後に、プロデューサーの視点から、総括をお願いします。

難しいなぁ。
あんまり無理して先のビジョン描いたり、そのために変わろうと思ってもたぶん無理が出て、メディアの存在としてはふらついたものになると思うんですね。だから無理に変わろうとしないで、さっきも言いましたけど、ライターの皆さんが取材活動で相手と仲良くなるっていう点をいっぱい作っていく事だけ、そこは絶対ぶれないでやろうかなと。

ただ、現状が全てだと満足はせずに、何かきっかけや機会があった時はそれを真剣に考えて、一歩前に進むってことだけですかね。あんまり先々の事を考えると、ましてやインターネットメディアっていうことを考えて先の事を想定しちゃうと、気付いたら根っこが無くなってしまう気がするので、ちょっとずつ変化して行けたらいいかな。

ネットメディアというとスピード感というのが戦略、戦術的にも求められるんですけど、逆でえぇんちゃうかなと思いますよ。ネットメディアだからこそゆっくりやっていって、世の中が通り過ぎて忘れていってしまったものを、取りに帰ってきてくれるようなスピード感。そういう感性を残しつつ、振り向いてもらえるような存在になりたいですね。

あまのじゃくなんです。逆ばっか言ってますから(笑)

とても面白い話、ありがとうございました。

有田さんは雑誌の編集をされていたときの感覚を持ちつつ、ただそこに固執をしない柔軟な思考でウェブメディアを捉えておられます。ネットの展開も独特の感性と理論で進めておられて、とても刺激の多いインタビューでした。

インタビュアー:将積哲哉

ウェブサイト

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