エンジニアの仕事人生を考えるウェブマガジン「エンジニアtype」様へインタビューを行いました

エンジニアの仕事人生を考えるウェブマガジン『エンジニアtype』を運営されています、株式会社キャリアデザインセンター Webマガジン編集部の編集長 伊藤健吾さんにお話…

エンジニアの仕事人生を考えるウェブマガジン『エンジニアtype』を運営されています、株式会社キャリアデザインセンター Webマガジン編集部の編集長 伊藤健吾さんにお話を伺いました。

エンジニアtype
http://engineer.typemag.jp/

御社のメイン事業『@type』は総合転職サイトだと思うのですが、なぜエンジニアに絞ったメディアを立ち上げられたのですか?

『エンジニアtype』というウェブマガジンを立ち上げたのは去年の4月なんですが、その前から紙の雑誌で長くやっていました。事業の流れをご説明すると、弊社の創業期の主力事業は『type』という雑誌を使った求人ビジネスだったんです。『type』は求人情報が載っているだけの雑誌ではなくて、半分は日経ビジネスのようなビジネス情報やキャリア情報が載っている雑誌にして、ハイキャリアの方向けのビジネス情報兼求人情報を発信する雑誌としてビジネスをしてきました。その後、姉妹雑誌として『エンジニアtype』と『ウーマンtype』という雑誌を立て続けに創刊しました。

『エンジニアtype』は雑誌として1997年から2009年まで発刊していたんです。転職サイトの『@type』(http://type.jp/)は2000年にスタートしたんですけど、エンジニアの求人に強いサイトという特徴がありまして。ユーザーも、掲載している求人広告の割合も、エンジニア関連職が多いんですね。ですのでその強みを伸ばすために、休刊していた『エンジニアtype』をビジネス・キャリア情報を発信するウェブメディアとして再創刊したという状況です。そういうわけで、まったくブランドの無い状態で、ゼロから立ち上げたというわけではないんです。

現在、メインの求人広告ビジネスは『@type』がフラグシップとして担っていますが、転職サイトって、転職活動をいったん終えると当面は使わなくなるじゃないですか。また、ユーザーさんによってはいろいろな事情で「登録はしたものの使っていない」とか、アクティブじゃない会員様もいらっしゃるんですね。そういった会員様をそのまま放置するのではなくて、またいつか転職活動をするタイミングになったときに『@type』を使ってもらうためには、弊社のファンになっていただくのがいいんじゃないかと。ということから、『エンジニアtype』には、弊社のファンを作るというミッションがあります。

もうひとつのミッションは、サイトとしてユーザーを集めて、そこで商売をしていくという、通常のコンテンツサイトと同じミッションを持っています。そのためにも、まずはユーザーの獲得を主眼に置いていますし、そのうえで広告収入ですとか、イベント収入のようなものも見越した収益化をすることで、独立採算を目指しています。

ファンなっていただくという点で言うと、ファンを生む仕掛けというのはありますか?

いくつか用意しています。

まずはコンテンツの質でファンを増やすというのが大前提としてあります。それに加えて、弊社で行っている『エンジニア適職フェア』というリアルな転職イベントの会場でトークライブを主催するなども行っています。ほかには、今まさに企画中なんですけども、他メディアや団体さんとのコラボレーション、つまり一緒に特集を作成して掲載したり、イベントを開いていくことで、今まで接点が無く、『エンジニアtype』のコンテンツを読んだことがない方々にリーチしていく取り組みを準備しています。
後はソーシャルメディアですね。ツイッター、フェイスブックを活用してファンを増やすことは意識しています。僕らのサイトはエンジニアの方々がコアユーザーだからか、ツイッターからの流入がほかのソーシャルメディアに比べてとても多いんです。個人的な肌感覚としても、情報を拡散するパワーは今のところツイッターが一番強いと思うので、ツイッターをうまく使うことを意識しています。

ウェブメディアとして僕らは新参者のサイトということもあって、いわゆる大手のIT系情報サイトさんとどう勝負していくかは大事なポイントと感じています。ですからツイッターの運用も、ただコンテンツを作ってソーシャルメディアで吐き出したところで誰もファンになってはくれないと思いますので、どういう情報を発信していくか、他社さんとの差別化を意識しています。
作成する記事の軸としては、『@type』という転職サイトを運営しているからというのもあるんですけど、エンジニアの「働く」をいろいろな面から応援していくことと、エンジニアの人がキャリア形成していくうえで今後直面していくかもしれないような出来事、例えば、業界の変化もそうですし、「プログラマー35歳限界説」のような定説がある中で、それをどう自分なりに乗り越えていくか、もしくはそういう諸事情を踏まえてどう良い仕事人生を作っていくかの参考になるような情報を、ちょっと先読みして出していくというところにポリシーがあります。当然、「キャリア構築ってのはこうやってやるんだ」というものをお説教のように伝えていってもなかなか伝わらないな、ということは過去の雑誌制作の経験から認識していましたので、具体的には「キャリア」ですとか「働き方」、「業界の先読み」みたいな記事を書くときは、あるべき論を展開するんじゃなく、人の生き様や考え方、発想にフォーカスをして書いています。実体験に基づいた、活きたナレッジを発信していこうと。
また、例えば何か新しいサービスのニュースが業界にあったとき、一次情報は大手メディアさんがいち早く出しているので、僕らはその裏で、そのサービスを作ったエンジニアさんがどういう発想でそのサービスを作ったかとか、そういうヒットサービスを作った人がどういう過去の経験やキャリアを踏まえて今に至っているのかっていうところを深読みしていくような情報発信をしています。

そこでツイッター活用の話に戻るんですけれど、僕らは「人」をたくさん取材しているということで、ツイッターで「○○さんの記事を掲載しました」と僕らがつぶやくだけじゃなくて、その方にもつぶやいていただくようにお願いをしたりですとか、その方のアカウントをツイートに入れてお礼のつぶやきをすることで、記事の拡散を促しています。
記事にご登場いただいている方々が、素晴らしい実績をお持ちのエンジニアの方とか、業界で注目されている起業家の方だったりしますと、いまや彼ら自身が「メディア」ですからね。ツイッターをうまく使う事で、今まで『エンジニアtype』を読んでいただいていなかった方々にも、どんどん記事や存在を知ってもらうことができるわけです。

ネットやツイッターなんかで急激に話題に上ることを「バズる」と言うんですが、どうすればバズるかっていうところはいろいろ要素があって、例えばチームラボの猪子さんとアルファブロガーの小飼さんとの対談のように有名な方同士の対談は人気があって、僕らの想像以上にバズりました。じゃあそれ以外にどうすればバズるのかをいろいろと考えていまして。お話を伺う人の魅力だったり、企画のテーマ、切り口、タイトルで興味を惹くというベーシックな部分だったり、大きいところから小さいところまでひとつひとつにこだわっていかないと、ウェブだとただ記事を書いても見逃されるっていうところが大きいので、そこの工夫を試行錯誤していますね。

そういう記事対象の人は、どう探されているんですか?

ひとつは愚直にニュースを追い続けるというものですね。
先ほどお話したとおり、一次情報は他社さんにお任せして、その裏側にいるエンジニアの発想ですとか生き方に迫っていくというポリシーですので、ひとつニュースがありますと、それを作った人はどんな人なのかとか、どういう工夫でこれを開発したのかというところを聞きに行こうと。

もうひとつはエンジニアの方々のネットワークを活用させていただいています。エンジニア同士のコミュニティは言語や技術領域ごとにたくさんあって、そこに顔を出させていただいたり、取材をさせていただいたりしながら人脈を作っていって、その業界の人が注目している方を教えていただくという形で、アポ入れしていますね。

ウェブでコンテンツを発信していくときに大事な要素っていろいろあるんですけど、中でも「ネットメディアだからこそリアルな繋がりが大事だな」っていうのは、実際にウェブサイト運営をやってみてから学んだところがあります。全国の取次さんや本屋さんと関わりながら流通していく雑誌と違って、ウェブサイトって立ち上げコストこそ安いものの、記事をどう流通させて、どういう人に読んでいただくかっていうのはまったくのフリーで、何もしなければ誰も来ないサイトになっちゃうんですよね。そんな状態から認知を広めていくには口コミが大事になるわけですが、そのためにはリアルな場で会っている方々とのよい関係構築や、ネットワークの量が大事なんだなって痛感していて、僕らが取材したり勉強会に参加したりとかでお会いした方々ひとりひとりに敬意を払わなければならないと思うんです。
そこで印象よく思っていただければ、『エンジニアtype』っていう媒体にも興味を持っていただけますし、記事を読んで面白いと思っていただけたら、何度も読みに来たり、知り合いに広めて下さるかもしれませんよね。過去にはそういった信頼関係がうまく築けず、掲載した記事にお叱りをいただいたこともありました。なので、今『エンジニアtype』には僕以外の編集マンが2人いるんですけど、勉強会に顔を出したり、イベントに参加させていただくことを意識してやろうっていうのをお互い確認しています。

雑誌とウェブの違いは、どこにあると感じてますか?

雑誌とウェブって、ユーザーが情報をどう取っているかが、そもそも違うなぁと思っています。
本は、本屋に行ってお金を払って買うじゃないですか。お金を払って買っている時点で、その人は読む気になっているんですよ。でもウェブって、タイムラインが自動的に流れてくるし、RSSなんかも、登録するだけでいろんなサイトの情報がたまっていくじゃないですか。要は、自分から読みに行かなくても、情報がやって来るんですね。そうなると、逆に読者は「記事を読もう」っていうモチベーションが低いだろうと、僕らは仮説を立てていて。
そんな前提に立ったうえでどう興味をもってもらうかっていうところが、雑誌とウェブでの一番の取り組みの違いだと感じています。

雑誌に比べてウェブはフィードバックを受けやすいとは思いますが、そのあたりはどうでしょうか?

サイトに「お叱りボックス」という連絡手段はありますが、実際のところはツイッターのリプライでのフィードバックの方が多いです。じゃあ何でお叱りボックスを設けているかと言うと、サイト立ち上げの時に、うちのスタンスとしてこういうコーナーを作ろうと、意識してやりました。サイトの立ち上げに際して、ソーシャルを意識しないといけないなとは思っていたんですけれど、じゃあソーシャルを意識するって何なんだろうと考えたんです。
『エンジニアtype』はコンテンツサイトなので、SNS的な機能も、会員DBを持って会員さんと頻繁にメールのやりとりしたりするという機能もない。じゃあどうやってユーザー交流をしようかと考えていたときに、記事に対するご意見なんかは是非いただきたい、という姿勢を明示的に示そうということで、大きめにバナーを出しました。

今後、どう広げていって、どんな展望をお持ちなのか聞かせてください。

今後は3つ軸を立ててやっていきたいなと考えています。

一つ目は、人の経験則から生まれるナレッジの提供にこだわるという媒体ポリシーを、今まで以上に意識してコンテンツ制作をしていきたいと思っています。コンテンツやサイト全体、あるいはトップページデザインの細部にいたるまで、サイトとしてのスタンスを尖らせていかないと、ユーザーは「そもそもこのサイトに行く意味ってなんだっけ」という話になってしまいますよね。『エンジニアtype』に来ると、ちょっと先を行っているエンジニアの発想ですとか、仕事の取り組みですとか、長く業界で活躍している人がなんでそういうキャリアを作れたのかって言う経験談ですとか、いろんな人のナレッジが必ず読めます、というサイトの色をもっと強めていきたいですね。

二つ目が、集客っていうところなんですけども、サイトにどう興味をもっていただくかというところで、異色のコラボっていうのを強化していきたいと思っています。エンジニアの方は作ることにやりがいを感じてる方が多いですので、けっこう他社さんのやり方ですとか、仕事の仕方ですとか、どういう技術を使っているのかを知りたいというニーズがあるんですね。そこで、いろんな知恵とか技術を持っている人たちが集まって一緒に何かやるっていう企画を立てていくことで、業界全体の活性化を応援していこうと。僕たちはこれを「オープンイノベーション」と呼んでいるんですけども、ネット上でもリアルな場でも、『エンジニアtype』がオープンイノベーションを応援していくジェネレーターになれればいいなと思っています。そこで生まれた新しい発見やナレッジを、後日レポート記事として出していくことで、そこに注目するエンジニアの方が増えていけば、最終的にはPV獲得にも繋がると考えています。今も、とあるシェアハウスの運営グループと一緒に組んで、若い世代の作り手たちが持っているクリエイティブなモチベーションを発揮してもらおうという定例イベントを企画しています。そういったオープンイノベーションを応援するみたいなコラボを、いろんな企業や団体と組んで積極的にやっていこうかなと思っています。

三つ目は、やはりひとつひとつの記事に時事性がないと「人が読む気になる力学」が働かないと思っているので、ニュースの裏側を掘り下げるって言う視点は強化したいと思っています。僕らが雑誌を作っていたときも感じていたことなんですけども、キャリアってすごく曖昧な言葉なんです。「キャリアについて考える」っていうと凄く立派に聞こえるんですけど、キャリアについての情報を実際に読むか読まないかでいうと、積極的に読なければならない必然性ってそこまで強くはいないんですよ。特にウェブマガジンなので、ユーザーがウィークリーやデイリーでそういう情報を読む意欲は、そこまで高いはずがないっていう前提に僕らは立っています。そういう点から、いわゆるナレッジ的な記事で真正面から勝負するっていう媒体ポリシーに、ふりかけとしてのニュース性を加えることで、「今読まなければならない感じ」を持たせようと考えています。

独自性の高いウェブ情報の発信でファンを創出していきながら、リアルなイノベーションの場の提供も連動させていくことでビジネスを展開されるんですね。本日はありがとうございました。

『エンジニアtype』はキャリアの情報発信だけではなく、エンジニアの交流の場も積極的に広げ、エンジニアとして生きる人のサポートをされています。メディアとして情報を得るだけではない価値があるので、エンジニアの方は一度サイトを訪れてはいかがでしょうか。

インタビュアー:将積哲哉

ウェブサイト

http://engineer.typemag.jp