第二回:オシャレオモシロフドウサンメディア「ひつじ不動産」の運営会社様へインタビューを行いました

メディアと言う立場から、「シェア住居」という新しいマーケット作りを行ってきた株式会社ひつじインキュベーション・スクエア代表の北川大祐さんへのインタビュー第2回です。

メディアと言う立場から、「シェア住居」という新しいマーケット作りを行ってきた株式会社ひつじインキュベーション・スクエア代表の北川大祐さんへのインタビュー第2回です。
 

ひつじ不動産
http://www.hituji.jp/

マーケットについてお伺いします。 マーケットが広がる中で、ブレークポイントはどこにありましたか?

ブレークポイントは無いんです。
例えば昨年の震災。震災で物凄く報道されて、露出が増えましたけれども、相変わらず例年通り、粛々と淡々と増えるんですね。他にもシェアに関連した映画やドラマがヒットした事もあるんですよ。例えば「ナナ」という漫画が売れたときにはナナの影響がって言われますし、「ラストフレンズ」というドラマが出たらその影響でって言われるんですけれども、実はそれも入居者の増加には全然影響ないんですよ。
このマーケットは、毎年30%くらいの数字で伸びていて、30%成長を何年も続けた先に今があるというのが現状なんですね。今年もそれくらいに収まるペースです。

なぜ着々とした成長が実現できているのでしょう?

これは正にプロダクトアウトだから、なんですけれども、実際に入居してくれた方が割と良い体験できてるっていうところが凄く大きいですね。僕らがこの事業を始めるにあたって、とにかく担保しなくちゃいけないとやってきたのは、入居した人達が高い確率で良い体験ができる事。全部この一点なんですね。これ以外の事はいいんですよ。とにかく住んでいる人達が良い体験ができていれば、それはちゃんと広がっていくんですね。逆に言うと他の事が全部できていても、住んでみて良い体験ができていなければ、これは終わっていくんです。だから、できる限りとにかく入居者が良い体験をしてもらえる確率を上げる、そのために良い供給とか質の高いオペレーションをやってもらう。
じゃあ我々はそのために何をしているかというと、例えばオペレーションって結構しんどいですので、オペレーターのキャパシティ内でオペレーションしやすい層に来てもらうっていう事なんですよね。

例えば、所謂貧困報道とどうしても切り離さなくてはいけなかったのは何故か。報道も作りやすいし、貧困層に需要があるんだったらそれはそれでいいじゃないかと思いがちなんですけど、我々はそこで、それは絶対駄目だと一生懸命従来の状況を維持するように取り組んだ。その理由は、実際に住居に困ってます、社会生活が送れていません、という人たちをシェア住居に引き込んできたとして、そう簡単にはオペレーションしきれないんです。トラブルなく長くやっていける住宅として維持できるのか、というとシェア物件のオペレーションを知ってる人間であれば、それは難しいねってみんな言うわけですよね。僕らも全く同感です。実際、当時そうやって供給された物件は、あっという間に治安の悪いスラムのようになって貧困層の方々自体にすら敬遠されるような環境になってしまった。
もしそこで、目の前にいて追いかけやすいという理由だけで一旦そういう風にマーケット形成をしていたら、今の状況はおそらく無かったわけです。2008年の時点で、シェア物件に行くと所謂貧困層の人達がたくさんいて、例えば盗難のようなトラブルがよく発生する事態になっていたら、今の状況は作れなかったかもしれない。

つまり市場形成って言うのは、取りやすい所から取っていけば良いわけでは全くなくって、やっぱり後先でちゃんと持続的に良い体験を提供できるかって言うところを見据えながら、現在の市場の地力でオペレーション可能なキャパシティの範囲で広げていかないと、一時フワっと盛り上がるんですけれども、結局は続かないわけですよね。

では、オペレーションしやすいターゲットというのは、具体的にはどこでしょうか?

30歳前後の社会人の単身者で、きちんと自立可能な所得のある人々ではないかと仮説を持って取り組んでいます。最終的に自己責任と言える世代ですし、経済的にも、万が一まずい事があったときに選択肢の多いテナントなんですね。本当にどうしようもなくなった場合に彼らは実際、自分の判断で出て行ったりできるわけです。社会経験も程よくあるので、例えばトラブルになるような時でも柔軟で聞き分けが良い。
例えば若い学生さんとなると、なかなかそうもいかないものです。新しい分野の住宅を作っていくときに、一番やりやすいところから入ってノウハウを蓄積するのは鉄則だと思います。

ここを最大限広げていったら、次はどこを狙っていくのですか?

基本的には、好むと好まざるとに関わらず、学生になります。学生さん向けの露出は、実は意図的に控えてきたんです。ずっと。シャットアウトしてきたといっても過言ではないくらい、学生さんに見つからないように見つからないようにマーケティングをかけてきたところがあるんですよ。
ずっと抑えてきたのですが、でも、見つかってしまえば速いんですよ。学生のマーケットっていうのは、一枚岩で、非常に均質性が強い。皆需要が似た感じなんです。
社会人向けのシェア物件が粛々と淡々としか伸びないのは、均質性があまりないからなんですね。それぞれの事情も持ってるし、流行に飛びつこうっていう年齢でもなくなってきている、というところで、割と順繰りに来るわけですよ。認知がぱっと広がっても、一人一人それなりに判断しながら徐々に来るから、逆にこれが市場形成という意味では良いわけですね。ですけど、学生さんて言うのは、割と似通ったマインド、似通った価値観、似通った経済状況の人が大量にいるので、一発火をつけると、火炎が広がるようにパーっと横に広がる可能性があるんです。これは一見すると魅力的で、このマーケットが取れる事によって成り立つ物件もたくさんあるので、各不動産会社としては凄くやりたいんです。
けれども、実際のところオペレーションの観点から言うと、これはシェア物件の数多くの事例を見ても、社会人テナントと学生テナントが一定以上の比率で同じ建物の中に長期間共存するという事が難しいんです。かなり高い確率で破綻する。生活のサイクルや価値観、シェア住居に求めているものが、大きく異なってしまうことが多いのですね。
市場全体で今日本人の学生さんは1、2%程度で、これはある種意図的にやってきた部分がありますけども、これがあっというまに市場全体で10~30%程度の比率になるというのは十分ありうる話。だから学生テナントが来る前に、社会人テナントの母数をとにかく稼がないと駄目だ、という事で抑えてたという事情だったわけですけれども、まだたかだか15,000人のところに、例えば数千、数万の需要がポンとくると、結構危ないですよね。もの凄く社会人テナントの敬遠要因になってくるわけです。

もちろん学生市場というのは、その意義性から言っても充分に重要なものだと思いますので、時期が来ればしっかり取り組みたいと考えています。長い目で見て社会的なインパクトがありますし、醍醐味がありますよね。

生活スタイルがあまりに違うのですね。ここを明確に住み分けられるようにしないといけない。

そうですね。とにかく社会人との間でトラブルが起きやすい。社会人向けのところに入っちゃうと、夜煩いとかマナー守れとか、あまり人を連れて来るなといった事を言われるわけですよ。なので、学生さんは学生さん向けのシェア物件に住む方がおそらく市場形成としてはスムーズですね。ただし都心部の住宅街でそれをやるのは、僕は大反対です。例えば住宅街の戸建物件とか、絶対やるべきじゃないですね。高確率で近隣とのトラブルになるので、郊外の大きい寮のような建物以外に関しては、学生向けのシェアは慎重に捉えるべきではないかと考えています。このマーケットの未来を考える上でも、学生さん向けは、割と大ぶりな箱で郊外にあるものを作るという事が、これからやらなければならないテーマなんだろうなというところですね。

それぞれのテナントにそれぞれ事情があるんですね。

シニアに注目する話もありますが、これもオペレーションがどう考えてもきつい。シェア物件の現実的なオペレーションを知っていれば、これは一般化できる話ではないであろう事は、多分多くの人に同意していただける事だと思うんですね。じゃあどうするのかっていったときに、ファミリー向けのシェア物件というのは、これから市場形成の余地があると思っています。その中に、一定数シニアの方が混ざってくるという感覚です。
ファミリー向けは要するに、今15,000人くらいいる第一次シェア住居世代が30歳前後の単身者の社会人で、ここがどんどん所帯を持っていったときに、ファミリー層になるんです。すでに結婚しても住める所はないのかという需要は出始めていて、ある意味、子育て環境としての意味合いを含んだニュアンスで求めてくるわけですね。この第一次シェア住居世代が所帯をもっていくという流れの中に乗せて、ファミリー向けのシェア住居というマーケットをゆっくり作っていくというのが恐らく一番自然かつ手堅い、あまり不幸な人を出さない市場形成だろうなと思っています。
ここはまだマーケットシェアの取り合いをしてくとか、そういう段階には明らかに無く、恐らくこれから沢山失敗をしないといけないし、我々も事業主さんも苦労しなくちゃいけない。リスクもあるので、先行者利益と、先行者ならではの苦労を両方長期的な目線を持って取り組んでいけるタイプの事業主さんがじっくり手がけるべきだし、まかり間違ってもなんだか需要があるみたいだから、とりあえずやってしまおうみたいな事を一斉にやり始める事が起こってはいけない分野だと思います。子供が育ったりする環境ですから、住宅としての責任は単身者向けの非ではないですよね。そのとても重要でおそらく難しく、しかし意義の大きな分野が次に僕らがやりたい事です。
あとは全国の各都市にちゃんと育てて行くっていうのもやらないといけない事ですね。

昨年からの全国区版ですね。

そうですね。
これも、シェア住居というのはプロダクトアウトだという話の延長にあります。要するに快適な環境としてちゃんと提供ができているという所が一番大事なんですね。一定の品質があるっていう所が凄く大事なポイントなんです。そのためのオペレーション方法や住宅作りには歴史があって、かなりこなれています。これがあるから着実に伸びるわけなんですけれども、残念ながらこの積み上げは世界中で東京にしかないんですね。なので、今日本全国でシェア物件の広がりが出てますけれども、実はそれらエリアには積み上げが無いんですよ。メディアによる報道も非常に誤解を生みやすい内容が飛んでる中で、夢一杯の若者だけで15,000人だと思われるとまずいわけです。地方の不動産会社さん達がそれを見て、なるほどこれからはシェアなのかと、迂闊にシェア物件を作ってしまうと、シェアがブームだって言ってるけど住んでみたら最悪だったよと、言う人ばかりをそのエリアで増やしてしまう。その結果、各エリアで市場形成がされていく中で、ある種の焼畑を作ってしまう可能性もある、そういった危機感が一昨年時点で我々には凄くあったんです。

じゃあ各エリアでこれから一生懸命事業主さんがそれぞれに研究をして品質を上げていくのかというと、それは東京で30年かかってやった事をやられるのですから、東京というモデルがあるから30年はかからないにしても、5年くらいかかるぞと。5年もあれば焼畑になってブームが終わるのにも十分かもしれない。これは、将来を考えたうえでは結構まずいといったところで、各エリアでしっかりと順調に伸ばしていくために、東京で30年さんざん失敗してきて積みあがった、その失敗の積み上げを基礎として持っていった方が良いというわけです。そういうわけで、管理士講座をしたりですとか、全国版のひつじ不動産を作って内容面で競争しやすい基盤をつくっていくといった取り組みを始めています。

今後、地方の各不動産会社さんに、今まで積み上げてきた情報を提供したりされるのですか。

いわゆるコンサルみたいな仕事は原則としてやらないんですよ。
我々がコンサルをする事によって、何かすごく新しいモデルができて、市場全体の未来がぐっと広がるといった場合にはお手伝いする場合もあります。例えば、一昨年やった団地再生の案件っていうのは、そういう話ですね。

団地は水回りがそれぞれに付いている「共同住宅」といいます。シェア物件は水回りが共用となっている寄宿舎というタイプが主となってきたのですが、共同住宅でも我々の掲載基準では全然問題ないんです。そういった共同住宅は日本中にたくさんあります。そのうち、一棟丸々空いているものはあまりなく、7割稼働で3割空きといった形が多いのですが、7割が稼働してしまっている建物を、既存の居住者を追い出してしまうことなく、如何にシェア物件としての付加価値を織り込みながら再生していくかという、一棟丸々で処理するよりも高度な工夫が必要になります。こういったケースは、団地の再生という事に関しても未来があるし、余ってる共同住宅を如何に活かすかっていう事にも未来がある。それが、たまたまある良心的な財団さんが、自身で持っている団地でやりたいという話があったのでやらせていただきましたが、そういうケースでもなければやらないですね。基本的にはそこはコンサルタントさんが活躍すればいいと思っています。

我々は本当に純粋にメディア事業一本、ですね。いわゆる受託開発なんかもやらないですし、ひつじ不動産は始まった時からひつじ不動産というプロダクト一本でやってる割とある意味レアなベンチャーではあると思います。

第三回に続く

第一回はこちら

インタビュアー:将積哲哉