第三回:オシャレオモシロフドウサンメディア「ひつじ不動産」の運営会社様へインタビューを行いました

メディアと言う立場から、「シェア住居」という新しいマーケット作りを行ってきた株式会社ひつじインキュベーション・スクエア代表の北川大祐さんにお話しを伺いました。第3回は、新しく始められたシェアオフィスについてインタビューしました。

メディアと言う立場から、「シェア住居」という新しいマーケット作りを行ってきた株式会社ひつじインキュベーション・スクエア代表の北川大祐さんにお話しを伺いました。第3回は、新しく始められたシェアオフィスについてインタビューしました。

ひつじ不動産
http://www.hituji.jp/

PORTAL
http://www.hituji.jp/portal/

今年からコワークスペース、シェアオフィスを始められていますが、これはどういった意図ですか?

これはですね、僕らはシェア事業を住宅の分野で、集合住宅・共同住宅を豊かにするための一つの設計パターン、あるいは運用パターンを作りだすという事でやってきてるわけですね。これはシェア物件という、共同生活をする新しいカタチがポコンと出てきたからそれをやるんだという意識ではなくて、元々脈々と歴史的に紡がれてきている共同住宅や集合住宅の歴史っていうものがあって、そこに新しい付加価値の付け方とか、新しい豊かな住宅の設計の仕方、デザインの仕方っていうものを作る、まさに進化をさせるっていう意識でやってきているわけです。そのために共用部であったりとか、その建物の中にいる人間っていうコンテンツを、もっと効果的に価値に変えていくためにどうするか。それを考えていこうよっていうのが、僕らがずっとやってきた事なんですけども、それをやっていく中で、住まいという場所を今までなかったぐらい豊かにするという事に対して、凄く成果を上げてきたと僕らは思っています。
我々のスタッフも皆、必ずシェア物件に住む事が入社条件なんですね。住んで楽しみながら自分自身がユーザーとなって、自分たちのためでもある市場づくりをしているんです。

住まいって人の人生のなかで凄く大事な場所ですよね。人生の中の凄く永い時間をそこで過ごすわけですから。ですから、その住まいにいる時間帯が、今までより豊かになるという事は、もの凄く人の人生に対するインパクトが大きいですよね。そこに意義があるのです。
そうした中で、ひつじ不動産は割とハードワークで、スタッフは家で過ごす時間よりも長く職場にいる。多くの方にとって人生というのは、家にいる時間と職場にいる時間とそれ以外の時間、この3つに大体わかれて、それぞれ1/3になると思うんですけれども、そうした時に、住宅の方はこれだけ豊かにしてきたのに、我々の仕事場は相変わらずせせこましく、けして豊かとはいえない環境の中で、家にいるより長い時間を過ごしているのはなんとかならないのか、住宅でやっているような豊かさが持ち込まれてもいいんじゃないかっていう話を実はずっとしていたんですよ。
例えばコミュニティがあるとか、人との連続的な出会いが刺激として楽しめるとか、もしくは大きなスペースや大きな設備が使えるとか、そういうのってシェア物件で培われてきた具体的な価値の出し方なんですけれども、それって住宅じゃなければできない話って何もない。ではそれをオフィスに応用をする事で、ワークスペースというものをもっともっと豊かに進化したものに変えていけるのではないか、それを是非やりたいと何年も前から思っていたんです。

よしやろうと思った契機があったんですか?

ずっと忙しくてできなかったんですけれども、我々のオフィスがいよいよ手狭になってきて移転をしなきゃいけないという事が契機になりました。ワークスペースを豊かにするというテーマでオフィスの方にも関わろうと考えた時に、僕らはあくまでメディア事業のプレイヤーですから、基本的にはこれはメディアとして関わるのが正しいと思うんですね。ということは我々自身がその一番のヘビーユーザーになってどっぷり浸かりきらないと、それの何たるかもわからないし、オフィスを探す方にとって何がポイントになるかもわからない、さらには選んだ後に何が大事なのかとか、それって僕ら自身がよっぽど使いこんでないとわからない事なんですね。それからその分野自体が先々どういう発展を見せていくのかと言う事に関しても、住宅に関してはかなり明確なビジョンを持ちながらやっているんですけれども、オフィスは使った事がないから描ききれないんですよ。
と言ったところで、どっぷり使えないと駄目だという事で、どっぷり入れるところを探したんですけれども、無かったんですね。我々10人弱の所帯が入れて経済的にもペイして共用部にも色々楽しいものがあるみたいな所がどこにもなかった。それだったらある程度自分達で実験的にやって、自分たちで体験していくしかないよねって話をしていったときに、たまたま素晴らしい立地の物件が見つかって、これを何とか成立させられるように頑張ってみようかと思ったわけです。

このTOCビルっていう建物は、立地の良さと建物の作りの開放的な点、それにオーナーさんが寛容で改装が自由にできるなど、色々ポイントがあるんですけれども、それ以上に面白いポイントがあります。
このビルの面白い所は、4階から上がスモールオフィスになってるんですね。20平米弱から広いところは60平米くらいまでの大小様々なスモールオフィスが入っているんです。それが原状回復不要となっているので内装デザインが割と大胆にいじれたり、小さな事業主さんが多く入っていて、ある種コミュニティを形成していたりするわけなんです。そういったビルのワンフロアを、PORTALにする事によって、実はビル全体を使って今後のワーキングスペースの実験ができるんですよ。

実験ですか?

もちろん僕らの影響が直接的に及ぶのはこのフロアだけなんですけれども、たとえばこのPORTALに最初一人で独立するときに入りましたと、それで1年2年やっていったら、割と順調に成長して人を増やして、4人にもなるとちょっとなぁってなるじゃないですか。となったときに、このビルであれば、上が空くのを待って、空いた所を押さえて、そっちに本拠を置きますと。ただし、あくまで狭い所しか借りられないので、バンバン電話をかけたりだとか、内部的な打ち合わせをやるため、純然たるワークスペースとして最小限を借りて、通常の打ち合わせや気分転嫁の作業には3階のPORTALアカウントを残というやり方をすると、もの凄い広い共用部を使いつつ、なおかつワークスペースとしても何不自由ない、ミニマムで済むよっていうような使い方が多分できるはずなんですね。
さらに想像すると、ここに集まってきたテナント何人かで共通して求めているもので、ここに足りないものを補うために一つ借りようとか、みんな困ってるから僕が一つ借りてそれを作りましたなんて人が出てくると、凄く面白いなと思ってるんですね。パブリックな共用部をこのビルにセットする事によって、このビル全体の柔軟性がもの凄く生きてくる可能性がある。もっともっとそこのシナジーっていうものを大胆に活かしていけるし、これからのワークスペースがどう進化していくかっていう事の大掛かりで柔軟な実験場になり得るんですよ。
僕らはとにかくワークスペースの未来を知りたいって事なので、そういう色んな実験ができるっていう環境って言うのは得がたいですよね。

凄く熱い実験ですね。そこで蓄えた経験や知識を、新しいサービスとして世の中に出していくんですね。

そうですね。
オフィスビルは沢山ありますけども、そこに対して新しい時代に合った新しいソリューションというのを、これから付けていかなければいけない、でなければ壊すかスラムになるかという事なので、東京に限らず何らかの形でビルは活用していかないといけないし、またそれが求められているわけですね。そうしたときに、ひとつのパターンとして考えられると思います。
今の所、過渡期にあるんですが、この段階ではキーマンが重要視されます。凄く社交的でヒューマンスキルが高くて、その人がいるからこの場がもってるよね、みたいな尖った人間が一人いる事によって、本来中々うまくいかないものがうまくいったりするんです。でも、それだといつまでもマイノリティなんですね。もちろんそこには素晴らしいものが生まれるんです。ニッチな時代って、面白い人も集まるし、自由も利くし、一番面白いんだけども、いつまでもニッチなものをニッチなままやっていくと、結局時間と共に無くなっていくんです。
だから、誰もが享受できるテンプレートにだんだん落とし込んでいく過程があるんです。それは、ある種ぎゅっと集約された強烈な時代性のある面白さが薄まってしまうし、あるいはつまらなくなってしまうんだけれども、桁が2つ3つも違ってくるような遥かに多くの人がメリットを享受できるわけです。そのために、真面目に事業に取り組みますよという不動産会社さんとかが、きちんと最後の最後落とし込んでいくというプロセスを行う、これが社会が進化して行くって事だと思います。尖った人は、それが当たり前になった後にはまた新しく、尖った事をやればいいんですよ(笑)

ひつじ不動産のメディアが担っているのは、やっぱりそこの一般化を割と安定した形で実現していくっていう所にあって、それはひつじ不動産のメディアのコンセプトっていうのが“普通の人のためのシェア生活”っていうものだからなんですね。シェアの熱狂的な支持者みたいな、そういう人も居ていいんだけども、基本的にはもっとカジュアルな、「まぁ面白そうだし良さそうだったらやってみるけれども、そのために凄く大変だとか、リスクが高いのはちょっと避けたい」っていう人達であっても、割とカジュアルに選択をしていただける。なお且つそういう人達があまり嫌な目に遭わないで、入ってみて良かったと言ってもらえる。そういう普通の人の為のシェア生活を提供する仕組みと言うのが、基本的に我々がやっている事業体介在型のシェア住居というものの役割だと思うんですね。
ひつじ不動産て言うのはそういう、新しいパターンというものに落としこんで行くというのがミッションで、ここでもそういう研究はもの凄いやってるんです。PORTALを始めて2週間くらいですけど、例えばメンバーっていう言い方を変えました。ここを使って下さっている方を最初はメンバーと呼んでいたんですけども、ニュアンスが違うと感じたんです。メンバーってあくまでお客さんじゃないですか。お客さんだし内向きの感じがするし、彼らはここの主ではない感じがする。そこで昨日から、メンバーではなくオフィスレジデントという呼び方をしようと。要するにオフィスの入居者であるという言い方にしたんです。賃貸住宅の入居者っていうのは、ある種サービスを享受する存在であると同時に、しかし一人一人がそこの主なんですね。そういう感覚で使っていただきたいし、カフェみたいな一方通行なサービスを受けに来ますっていう関係だと、このスペースに関しては違うんじゃないかという事ですね。他にはキッチンを作ったんですけど、なかなか使われないので、コーヒータイムという設定をして、皆がキッチンに集まってコーヒーを飲むように促す。そうするとキッチンで足を止めるし、その場で他の人達と会話が生まれるしってことで、コミュニティ醸成が始まるんです。また、プリンターとかシュレッダーといったものを、この空間の中のどこに置くと何が起こるのかとか。
そこはシェア物件と同じで、そういう小さい事の積み上げをしています。シェアだと、シャワールームはどこに置いたら良いかとか、お風呂で使う収納はどこにどういう風に置いたら一番快適なんだろうかとか、リビングルームはどういう配置だとストレスになるか、逆にコミュニティがいい塩梅で生まれてくるかとか、実は凄くこういうディテールの積み上げが、大事なんです。

物凄く地道な検証と実践の積み重ねなんですね。

よく銀の弾丸を求められるんですよ。シェアの極意ってなんですかって。そんなのはないんですね。泥臭く一つ一つの不自由とか不満とかあるいはあった方が良い物を、ちゃんと最適解を求めながらもがきながら見出していく事の積み上げの先にしか、クオリティなんてなくて、多分オフィスも同じはずですね。
コワーキングという言葉や魅力を持って夢を語る事はいくらでもできるんですけれども、それはそれとして、オフィスとして必要な事、駅からの距離、駅が遠いんなら遠いなりの付加価値、固定席の有無、収納やセキュリティをどうするのかとか、結局具体的なディテールはいっぱいあるので、そういう研究と実験をここで日々やっていくんです。

一か月後にもだいぶ変わりそうですね。

変わりますよ。一週間でもけっこう変わっていますからね。机の配置もこの一週間で全然違います。この一週間で相当快適になっています。今日も実はソファが届いたし、この打ち合わせ室の壁もホワイトボードになったりとか。

ここ(壁一面)もホワイトボードなんですか。

そうなんです。プロジェクターも無償で貸し出しをしているので、とても魅力的な打ち合わせができるようになっています。
PORTALはフリーランスの方でも、ちゃんとお客さんの対応をしたいという方が多いんです。そうすると、お客さん用にこういった良い打ち合わせスペースがあると、またこちらに来てくれるんですね。
プロジェクターでウェブの画面を映して、そこにペンで書き込めたりするんですよ。そうするとクライアントさんの方も「ここはこうして欲しいんだよね」って赤で書き込んで、大きな画面でやり取りができるんです。
こういった打ち合わせができると、呼ばれた方も嬉しいじゃないですか。面白いと思って帰ってもらえるし、またここで打ち合わせしたいって思ってもらえる。こういう所も付加価値があります。

シェア物件で人との接点を楽しもうという点はシェア物件の一番のポイントで、大きな意義性があって、一番面白い所なんですけど、もう一つハードの意味合いもやっぱりあって、シェア物件という文脈の設計だからこそ、単身者が7万程度で賃貸する物件であっても凄く良い設備や大きい空間が使えたり、デザイナーズマンションのような良いデザインの空間に住めるんです。このオフィスにおいてもやっぱりソフトとハードの両面ですよね。この空間をフリーアドレスで使う事によって、レジデントの方同士、どんどん繋がりが出来ていっていますし、それは当然仕事に繋がっていくだろうし、異業種の人と話す事は気分転換にもなるし色々新しいインプットがあるじゃないですか。そういったソフト的な事もここは追求できます。また、ハード的な事でいうと、数名程度のスモールオフィスだったら、到底やれないようなハードを提供出来るっていうのも、やっぱりこういうオフィスを作る以上は、出来る限り追求していきたい。僕も新しいものが凄く好きなので。プロジェクターなんかはいずれ2つ付けて、2画面でやりたいんですよ。そうすると、お互いにパソコンを持ってきて打ち合わせをして、僕の画面と相手の画面を出して打ち合わせをすると効率よさそうじゃないですか。そういう感じの事、数人だときついハードの充実というのをスモールオフィスに開放していくという事は、これからPORTALをやっていくうえでは、一つ目標としているところなので、乞うご期待という感じです。

最後に、ひつじ不動産の今後についてお伺い出来ればと思います。

そうですね。
ひつじ不動産というのは、基本的には昔からずっとやってきているのは、過ごし方の未来を作るという事なんです。これは、例えば家での過ごし方の未来を作るといった時には、住宅が良くならないといけない。その為にソフトもハードも考えるという事を粛々とやってきたわけですけども、今度はオフィスにおいても、オフィスでの時間の過ごし方を考えていく。QOL(Quality of life)は日常生活の話ですけども、QWL(Quality of work life)という仕事の時間、現代のQWLを追及する事が我々のテーマで、仕事の時間の使い方という所に関してもより豊かに生産的な過ごし方を作っていけるように、また新しい分野でも頑張りたいと思っています。
ぜひチェックしていただけたらと思います。

ありがとうございました

マーケットありきでメディアを立ち上げるのではなく、マーケットとともにメディアがあり、マーケットの将来を見据えながらメディアからアプローチをする。これまでにないメディアの形と、具体的な試みをお伺いすることが出来て、非常に示唆に富んだインタビューとなりました。北川代表、ありがとうございました。

インタビュアー:将積哲哉

ウェブサイト

http://www.hituji.jp/
http://www.hituji.jp/portal/

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